映画の時間
—書くことが生きること—ヴィオレット—ある作家の肖像
桜山 豊夫
pp.77
発行日 2016年1月15日
Published Date 2016/1/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401208353
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1942年,戦時下のフランス.ヤミで食料品を買う女性が官憲に追われる場面から映画が始まります.逮捕,拘留されますが,なんとか釈放され家に戻ります.この女性が主人公のヴィオレットです.家には夫のモーリスが待っていました.小説家である彼は,さほど彼女のことを心配するわけでもありません.観客は冒頭から違和感や漠然とした不安を感じとるかもしれません.この違和感や不安は,主人公の感じていたであろう戦時下の閉塞感にも近いものがあるのではないでしょうか.『セラフィーヌの庭』でいくつかのセザール賞を獲得した,マルタン・プロヴォ監督による,すぐれた展開だと思われます.
実は夫婦といっても戦火を逃れて疎開するための偽装結婚のようで,夫は女性には興味のない様子.ヴィオレットの愛を受け入れようとはしません.自ら創作に没頭する傍ら,愛を拒絶され不安に襲われている主人公に,その苦悩を「書く」ことで吐き出せ,と勧めます.夫なりの彼女への「愛情」なのかもしれません.ヴィオレットは,初めての創作に踏み出します.書き始めると,憑かれたように書くことに熱中し,処女作となる『窒息』を完成させます.
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