連載 三治郎の世界・6
作家と主人公
南川 三治郎
pp.415
発行日 1998年6月10日
Published Date 1998/6/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1686900829
- 有料閲覧
- 文献概要
近年,女性に特に人気の高い推理作家といえば,「検屍官」シリーズで知られるパトリシア・コーンウェルをおいて他にないだろう.私がこの作家を訪ねたのは,当時彼女が手に入れたばかりのビバリーヒルズのコンドミニアム.彼女はスクリーンから飛び出してきたような美貌の持ち主で,アメリカ人にしては小柄な肢体を最新のファッションに包んで私の前に現われた.「ハロー,サンジロー.わざわざ来てくれてありがとう」.
彼女は駆け出しの頃,暖房もないみすぼらしい部屋で毎朝4時から午後の5時までタイプを打ち続け,2年かかって最初の小説を書き上げたが,まったく売れずに苦渋をなめたという.その間に,生活のため検屍局のコンピュータ・プログラマーとして働き,さまざまな犯罪に関する知識を得て,200体以上の検屍を見た.それがきっかけで,「検屍官」シリーズの主人公である女性検屍局長ケイ・スカーペッタが誕生した.
Copyright © 1998, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.