扉
医師と作家
坂井 春男
1
Haruo SAKAI
1
1東京慈恵会医科大学附属第三病院脳神経外科
pp.103-104
発行日 2012年2月10日
Published Date 2012/2/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1436101642
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医学と文学に共通点があるとしたら,ともに人間を扱うということぐらいだろうか.修行手順も目指すところもまったく異なるこの両分野にわたって才能と業績を顕した賢人は少なくない.近年に限っても,文学・文芸と二束のわらじをはいた医師には,森 鷗外,斎藤茂吉,太田正雄(木下杢太郎),藤枝静男,加藤周一,安部公房,斎藤茂吉の次男北 杜夫,なだいなだ,加賀乙彦など,また外国人ではサマセット・モームとアーサー・コナン・ドイルがよく知られている.私が高校時代に読んだ精神科医・北 杜夫の『楡家の人びと』は,なんとなく私に医師を目指す気持ちの流れを作ったようである.医学と文学・文芸という異質の分野の接点には大変興味深いものがある.
脳神経外科領域では,新潟大学の初代脳神経外科教授の中田瑞穂先生が,ホトトギス派高浜虚子の門下で,俳句の世界に深く足跡を残している.佐野圭司先生が,ある年の学会総会で,外国からのゲストを前に芭蕉を紹介しながら,日本のわび・さびについて英語で講演されるのを拝聴し,脳神経外科医が異質の文化を巧みに伝承する場面に感銘を受けたことを今でも覚えている.
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