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1.寿命の長短にかかわる遺伝子
ここ数年で,寿命の長短に関係する遺伝子の実態がしだいに明らかになりつつある1).ヒトの遺伝子では,いわゆる早老症の1種Werner症の原因遺伝子が解明された.それは遺伝子の複製・修復にかかわるDNAヘリケースに類するものだった2).また,単一遺伝子の欠損によって,3~4週間で急激な老化の様相を呈するKlothoマウスの遺伝子産物は,細胞膜上の受容体か分泌蛋白の前駆体だろうと考えられている3).遺伝子の特定には至っていないが,老化促進マウス(SAM)も短命マウスの例である.一方,1つの遺伝子の変異によって寿命が,逆に,伸びることが,線虫(C.elegans)やショウジョウバエ(D.melanogaster)で知られるようになった.ショウジョウバエでは,methuselahという長寿命変異体の遺伝子が解明され,いわゆる7回膜貫通型のG蛋白共役受容体で,おそらく酸化ストレス応答にかかわるものと考えられている4).線虫のage-1変異体では,通常の飼育下で寿命が伸びるが,その遺伝子の実態は,シグナル伝達にかかわるPI 3 K類似の遺伝子であることが判明した1).age-1以外にも,同様の長寿命変異体が,いわゆるdauer形成異常にかかわる遺伝子の軽微な変異(daf-2,daf-18,daf-16など)によってもたらされることがわかってきた5).この数年,またたく間に,daf-2はインスリン受容体様の細胞膜受容体であること6),また,daf-16はフォークヘッド型の転写因子であること7)が明らかになった.この一連の研究からわかった重要なことは,この寿命制御系が1つのシグナル伝達経路を形成するという事実である.この発見は,寿命制御が少なくとも1つの明確なシグナル伝達系の変化としてとらえ得るという驚きをもって迎えられた.最近,同様のシグナル経路が哺乳動物にも存在することがわかってはきたが,哺乳動物でもそれらの遺伝子変異によって寿命が仲びるかどうかは全くわかっていなかった.
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