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生体を構成する細胞の増殖,分化,成熟,老化,死のすべての現象において,細胞外からの刺激に適切に応答してその細胞を維持または変化させるプロセスに係わるシグナル伝達は,細胞の生存にとって非常に重要な意味をもつ。シグナルを媒介する主体の多くはリン酸化酵素であり,それによって修飾されシグナルの流れを規定してゆくものがアダプター蛋白あるいはドッキング蛋白と呼ばれる一群の蛋白質である。アダプター蛋白とドッキング蛋白の区別は必ずしも明確ではないが,いずれも分子内にSH2,SH3,PTBなどの特異性の高い蛋白質結合ドメインを複数もち,状況に応じてシグナルの流れを切り分ける働きがある1,2)。その意味で,アダプターやドッキング蛋白は触媒活性をもたない比較的小さい分子でありながら,細胞内シグナル伝達の切り札となる。
細胞膜上に無数に存在するいわゆる受容体型チロシンキナーゼ(RTKs)や細胞内のSrc系チロシンキナーゼなどの直接の基質となるShcは,自己リン酸化されたそれらのキナーゼの活性化体にいち早く結合するドッキング蛋白質である。Pelicciらによる1992年の発見当初は細胞の癌遺伝子として知られたが3),1996年頃から神経系組織で発現するShcホモログの存在が明らかになるにつれて4-7),それらの神経系での新たな機能の解析が進んできている。ここでは,神経系におけるShcの役割という観点から,神経細胞の発達,分化,脳の高次機能,また,神経のストレス応答と脳の老化におけるShcおよびその関連分子の発現と機能を中心にとりまとめる。神経系におけるShcの役割に関連する初期の総説8,9)とShc系分子に関する一般的な総説10,11)も併せて参照されたい。
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