シリーズ最新医学講座―遺伝子診断 Application編
サラセミア
服部 幸夫
1
Yukio HATTORI
1
1山口大学医学部臨床検査医学
キーワード:
αサラセミア
,
βサラセミア
,
PCR
Keyword:
αサラセミア
,
βサラセミア
,
PCR
pp.1040-1045
発行日 1998年9月15日
Published Date 1998/9/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1542903841
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はじめに
ヒトの血色素(Hb)はαグロビン鎖と非αグロビン鎖(γ,δ,β)の各2分子ずつからなる四量体である.グロビン鎖の発現には個体の発生に伴いスイチングがみられ,胎児期の主要なHbであるHbF (α2γ2)は出生後減少して半年ぐらいで成人値まで落ちる.しかし,その後も生涯を通じてわずかながら発現される(1.0%以下).それにかわって,成人ではHbA (α2β2)が96%,HbA2(α2δ2)が2.5~3.5%ほどを占める.ところで,α,β鎖は赤芽球内(わずかに網球内)でバランスよく産生されているが,サラセミアでは一方のグロビン鎖のみの産生障害がみられる.その結果,血球内でのHb四量体の産生量が減少し,小球性赤血球症(小球症)を引き起こす.一方,正常に産生された側のグロビン鎖は相対的に余剰となる.それは血球内の蛋白分解酵素で処理されるが,一部は変性して血球膜に傷害を与え,溶血を招く.このように,サラセミアは小球症と溶血で特徴づけられる.α鎖,β鎖それぞれの産生障害で生じる病態をα,βサラセミアと称する.いずれもグロビン遺伝子の先天的な異常に基づくことがほとんどであるが,ごくまれに骨髄線維症や骨髄異形成性症候群(MDS)などで後天性の重症αサラセミアがみられることがある.臨床的には小球症のみで貧血はないか,あっても軽度のもの(軽症型),定期的輸血がないと生命が維持できないほど重症の貧血(重症型),そして両者の中間で軽度から中等度の貧血で必ずしも輸血に依存しない(中間型)の3者に分けられている(表1).
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