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はじめに
ヒトの遺伝性疾患は"Mendelian inheritance inMan (McKusick VA編)"にすべて網羅されている.1965年の第1版では1,300ほどであった疾患は版を重ねるごと数が増え,現在約8,000もの疾患が掲載されている.無論これは遺伝性疾患の数が増えたのではなく,われわれの遺伝性疾患に対する知識が増えたのである.この15年,単一遺伝子の異常に基づく疾患いわゆるMendel遺伝病を取り巻く状況は一変した.もしその病気を持つ家系構成員の試料(DNA)が収集できれば,今や確実にその原因に迫りうるようになってきたのである.これまで遺伝病の研究では,酵素,受容体など蛋白の欠損や異常,もしくはそれによって引き起こされる異常代謝産物を捜すことがまず行われ,その後,蛋白異常に対応する遺伝子をクローニングする方法がとられてきた.しかし,疾患によっては通常の検査では生化学的な異常がまったくみられないものも少なくない.多くの遺伝性神経,筋難病がこれに相当する.このようなこれまでは解析不能とされてきた疾患といえども,ポジショナルクローニング(positional cloning)の技術を使えば今や遺伝子単離が可能である.いやこのような疾患のために開発されたのがポジショナルクローニングである.
本態がわらない遺伝病では,唯一わかっていることはMendelの法則に従って遺伝するということである.こういう場合,"遺伝"するということに注目し,まずその疾患と一緒になって親から子へ遺伝する標識,すなわち疾患の原因遺伝子と"密に連鎖する"標識遺伝子を捜し出し,その染色体上の位置を決める.次に密に連鎖する標識遺伝子からさまざまな分子生物学的手法を駆使して順次原因遺伝子に近づき,最終的にはその遺伝子をクローニングするのである(図1).クローニングされた遺伝子から,その遺伝子産物である蛋白の機能を解析することで発症機序を知ることが可能となる.このような方法は蛋白異常から遺伝子に迫っていたこれまでの流れとは逆のアプローチであることからreverse geneticsと呼ばれていた.しかしこの概念自体は,目新しいものではないことから,今は,前者のアプローチ法をファンクショナルクローニング(functional cloning),後者をポジショナルクローニングと言う.ポジショナルクローニング法は本態不明な疾患に絶大なる力を発揮し,次々と疾患遺伝子が明らかにされている.それらの疾患を表1に示してある.
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