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アルツハイマー病の原因は不明である.患者の脳の神経細胞にはpaired helical filaments(PHF)といわれる異常な線維が蓄積しており,この蓄積物質から原因に迫ろうという研究の流れがある.PHFの成分としてタウが発見された.タウは,微小管結合蛋白の一種であり,正常な脳で神経細胞の突起の細胞骨格である微小管の形成を促進したり,微小管を束ねる機能を担っている.PHFのタウは正常な脳ではみられないリン酸化を受けている.一般に蛋白のリン酸化は細胞内の生理状態を反映すると考えられており,私たちは,このリン酸化に注目し,アルツハイマー病脳で起こっていることを明らかにすることを目指して研究してきた.
PHFのタウの特徴の1つはタウ分子のC末端部位(p2部位)のリン酸化である.ウサギの抗PHF抗血清にp2部位のリン酸化を認識する抗体が含まれていた1).私たちは,この抗体で認識されるリン酸化を指標として,プロテインキナーゼを検索し,このようなリン酸化をするキナーゼがウシ脳の微小管に結合していることを発見した2).部分精製の段階でこのキナーゼがタウに結合でき,タウをかなり特異的にリン酸化したので,タウプロテインキナーゼ(EC2.7.1.135)と命名した.精製が進むと,タウをリン酸化する活性は2つに分かれたので,p2部位をリン酸化するキナーゼをタウプロテインキナーゼⅠ(TPK Ⅰ),もう1つのキナーゼをタウプロテインキナーゼⅡ(TPK Ⅱ)として区別した.タウをリン酸化するプロテインキナーゼはいろいろ知られているが,調べた限りではTPK Iだけがタウのp2部位をリン酸化した3).TPK Iの最終精製標品にはSDSーポリアクリルアミド電気泳動(SDSおPAGE)で分子量45,000の蛋白だけが含まれ,この蛋白の部分アミノ酸配列にプロテインキナ~ゼの共通配列を見いだし,この蛋白がキナーゼの本体であることを確認した.このキナーゼはタウのセリン/スレオニン残基をリン酸化し,セカンドメッセンジャーで活性化されず微小管の主成分チューブリンで活性化された.TPK Iはヒトの脳でも検出された. PHFのリン酸化タウにはp2部位のリン酸化のほかにも特徴がある.正常なタウに対して作製したモノクm一ナル抗体tau-1はタウ分子の中央部位(tau-1部位)に結合するが, PHFはこの部位にリン酸基を取り込んでいるのでこの抗原性を失っている4}.TPK Iでリン酸化されたタウもtau-1抗体と反応せず,tau-1部位でもリン酸化されていることを確認できた3).
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