- 有料閲覧
- 文献概要
Salmonella属菌による食中毒は古くから知られているが,最近欧米を中心にSalmonella enteritidis(S. enteritidis:特にファージ型4)による食中毒が急増して問題となっている1,2).S. enteritidis食中毒の感染ルートを追求した疫学調査結果によると,その多く(42~88%)は鶏卵,特に卵殻内の汚染が原因と考えられ,新しい感染ルートとして注目されている1,2).個々の卵のSalmonella汚染は少ないが,卵を多数プールして大量に使う事業所では,約10%の頻度でS. enteritidisが検出されると報告されている.現在,米国で発生しているS. enteritidis食中毒の主なものは,州および国で決められた基準を満たし,卵の表面を消毒剤処理した"A級"の卵であり,卵殻内汚染が疑われている2).
この可能性を実験的に示すために行われたS. enteritidisのニワトリへの経口投与実験の成績3,4)によると,ニワトリはほとんど症状を引き起こさないにもかかわらず,かなり長期間(数週間以上)にわたり肝臓,脾臓,卵巣・卵管などから菌が回収されている.そして,このニワトリの産卵後の卵を調べると,卵殻内つまり卵白および卵黄から菌が検出された.この結果は自然感染したニワトリでS. enteritidisによる卵殻内汚染が起こる可能性を示している.これまでの卵のSalmonella汚染対策が卵殻内表面の汚染を意識したものであり,新たな対応が考えられなければならないであろう.また,この事実で特に問題なのは,いったんニワトリ卵巣がSalmonella感染を受けると長期間滞在するために,卵殻内汚染にとどまらず次のヒヨコへ垂直感染し,汚染ニワトリ・汚染鶏卵が急速に拡大してゆく危険が考えられることである.
Copyright © 1991, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.