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あとがき
池田 康夫
pp.216
発行日 2010年2月15日
Published Date 2010/2/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1542102245
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今月号の特集は「Helicobacter pyloriの診断と臨床応用」であるが,菌発見の経緯,それ以後の研究の展開を振り返ってみると,実に様々な教訓をわれわれにもたらしてくれて興味深い.単なるH. pyloriに関する基礎的・臨床的事項を知ること以上に,臨床的意義をもつ新知見がどのような工夫,苦しみ,努力,熱意のもとに生まれたかを学ぶことができる.研究者のみならず,医療に携わる人々,特に若い人々にぜひ知ってもらいたい.
2005年にH. pyloriの発見でノーベル医学生理学賞を受賞したBarry J Marshall博士が,ピロリ菌が慢性胃炎,胃潰瘍の原因となりえることを証明するために,自らピロリ菌を飲み,実証を試みたことはあまりにも有名である.ノーベル賞を受賞する3年前の2002年にMarshall博士が慶應医学賞を受賞し来日された折に,ご夫妻とお話をする機会を得て,菌を飲まれた経緯を聞かせてもらった.奥様はその実験をされたことを後から聞かされ,もし事前に知らされていたら絶対に許さなかったと話された.Marshall博士は臨床医であり,現在もなおクリニックで消化器疾患患者を診療しているとのことだが,患者治療にかける情熱は熱いものがあり,その情熱が危険ともいえる実験に博士を駆り立てたのだなと感じた.
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