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今月の主題は「POCT,医療におけるその役割」です.POCTとはpoint of care testingの略です.患者への診断・治療が行われている傍らで検査を行い,診断・治療を迅速かつ適切に行うために工夫されている臨床検査のことを一般的にPOCTと略して呼んでいます.昔から診療に際しては,視診,触診,聴診などの理学的検査は医師自身の手で行われてきました.目で見て,手で触れて,音を聴いて,患者の診療に役立てるこれらの理学的検査所見は現在でも診療には欠かせない重要な検査所見です.科学が進歩するにつれて,このような理学的所見に加えて,尿,糞便や血液など生体成分を分析して診療を行うようになりました.このような検査を臨床化学(clinical chemistry),あるいは,臨床検査(clinical laboratory medicine)と呼ぶようになりました.尿を分析して患者のアミノ酸代謝酵素の異常を見いだしたフェーリングの偉業(1934年,フェニルケトン尿症の発見)以来,診療における臨床検査の有用性が広く認められることになり,現在では,臨床検査データがなければ診断・治療はできないまでになっております.
臨床検査は,20世紀半ばまでは,患者の傍らで行われておりました.しかしながら,科学技術の進歩に伴い正確かつ迅速な分析機器が臨床検査領域に導入されることになり,患者の傍らで検査をするのではなく,病院全体の臨床検査用検体を一か所に集めて検査をする方向(中央化された臨床検査)に進みました.特に日本ではその傾向が著しく,わずかな検体量を用いた迅速・正確・精密な検査が,高度な精密機器の普及により全国ほとんどの病院で行われるようになりました.この“中央化された臨床検査”の医療への貢献度は計り知れないほど大きいものです.しかしながら,“中央化された臨床検査”で失われたものもあります.それは,“患者の傍らで,患者の状態に応じて医師が必要な検査であると思う検査を行う検査方法”です.“中央化された臨床検査”では,医師自身が直接関与しない形で検査データが得られるがゆえに,ついつい検査データの解釈が疎かになったりすることも起こるようになってきました.そのような欠点を補うべく普及してきたのがPOCTです.本主題を参考にして,皆様の病院でもPOCTをより有効に利用されることを願っております.
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