- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
- 参考文献
はじめに
患者の病態を正確に把握し,的確な治療方針を立てるうえで,迅速で正確な生体成分の測定は必須である.試料の採取量には制約があり,頻回の試料採取は困難であるため,測定には高い精度と感度が求められる.また,生体試料には多くの複雑な成分が含まれており,そのなかから微量の目的成分のみを選択的に検出する必要がある.これらのニーズに応えるため,臨床検査は生化学,酵素学,免疫学,分子生物学などの進歩を取り入れ,目覚しい発展を遂げている.また,臨床検査機器はエレクトロニクスやロボティックスの進歩に支えられ,自動化,高スループット化,多項目化,試料の微量化などが進展しつつあり,信頼性の高い分析が実現されている.
一方,ヒトゲノムプロジェクトによるヒトゲノムの全塩基配列解読,遺伝子機能解析の進展,リソグラフィー技術や自己組織化による微細化技術の極限追求,ナノチューブ・ナノワイヤーを用いた分子操作技術の開発など,ナノメーターサイズ,分子レベルを扱うことができる新たな技術の動きが急速に展開しつつあり,既存の学問分野の枠を超えて科学技術の融合が加速されている.ナノテクノロジーとバイオテクノロジーの融合分野であるナノバイオテクノロジーは,材料・デバイスの構造・形態,化学的性質をナノメーターオーダーで制御して,生物の機能を分子レベルで明らかにしようとする分野であり,材料科学,計測技術,微細加工技術などが基盤となっている.ナノバイオテクノロジーの成果を医療分野に応用することにより,疾病の分子メカニズム,疾病マーカーなどが明らかになり,さらには臨床検査用試薬,プロトコルなどが開発され,新たな臨床検査項目として疾病の診断に貢献することが期待される.また,試料の前処理,生化学反応,検出技術など検査に必要なプロセス機能の集積化・小型化により,新たな臨床検査機器や臨床検査形態の実現が期待される.
Copyright © 2006, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.