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バイオセンサは生体の巧みな分子識別機能を利用して化学物質を計測する装置である.最初にこの原理を提案したのはクラークであり,1970年代になってこの分野の研究が次第に行われるようになってきた.われわれは1970年代の初めに酵素を膜に固定化するユニークな方法を考案し,この膜の応用としてバイオセンサの研究に入った.バイオセンサに関する世界最初の本をクランフィールド工科大学のターナー教授,アメリカのアリゾナ大学のウィルソン教授とともに編集したものが1987年にオックスフォード大学から出版され,バイオセンサの研究ブームのきっかけをつくることになった.1988年にはバイオセンサに関する第1回の国際会議をタイのバンコクで開催(今年,第9回のバイオセンサの国際会議をトロントで開催)し,この分野の研究を促進することになった.筆者はアジア・太平洋地区のオーガナイザーとしてこの会議に参加している.また,「Biosensor and Bioelectronics」というこの分野に特化した学術雑誌をターナー教授らと創刊した.これらの努力によってこの分野の研究が次第に盛んになり,この分野の研究者は2,000人以上いると推定されている.
数多くの原理が提案されているが,実用化されているバイオセンサとしては酵素を素子とする酵素センサ,筆者らが世界で初めて開発した微生物センサ,免疫センサとDNAチップなどに大別される.これらのセンサのなかで最も大きな市場を形成しているのはグルコースセンサである.糖尿病は生活習慣病といわれており,これのもたらす合併症が極めて恐ろしい.しかし,患者が血糖値検査を行い,食事やライフスタイルを適切にコントロールすることができれば合併症を効果的に抑えることが可能である.そのために,糖尿病治療費の約30%をグルコースセンサが占めており,市場は現在約7,000億円に拡大していると思われる.したがって,使い捨て型グルコースセンサの開発が極めて盛んに行われている.
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