特別記事
医療機関における「音声翻訳アプリ」の利用—医療者の期待,医療通訳者の受け止め
須田 拓実
1
,
村松 紀子
2
,
井上 悠輔
3
1順天堂大学医学研究科公衆衛生学講座(執筆時:東京大学大学院新領域創成科学研究科)
2公益財団法人兵庫県国際交流協会・医療通訳研究会(MEDINT)
3東京大学医科学研究所公共政策研究分野
pp.722-727
発行日 2021年8月1日
Published Date 2021/8/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1541211498
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
- 参考文献
■日本語が不自由な患者への対応
2019年,厚生労働省により医師の応召義務の解釈をめぐる通知が発出されている.「応召義務をはじめとした診察治療の求めに対する適切な対応の在り方等について」1)という題名の文書であり,医師の「働き方改革」をめぐる議論と深く関係している.ただ,この文書が患者への言語対応に言及していることは,ほとんど知られていない.すなわち,「患者の年齢,性別,人種・国籍,宗教等のみを理由に診療しないことは正当化されない.ただし,言語が通じない,宗教上の理由等により結果として診療行為そのものが著しく困難であるといった事情が認められる場合にはこの限りでない」と言及されている点である(下線は筆者による).ここでいう診療が「著しく困難」になるほど「言語が通じない」とはどういう状態であろうか.応召義務は「国に対して負担する公法上の義務」(同通知)であるとはいえ,医療機関・医療者にとって,そしてもちろん日本で受診する外国人患者やその家族にとっても,こうした記載が中長期的にどのような影響を生じうるかは,気になる点であろう(なお,本稿では詳述しないが,「言語」に手話のような視覚言語や点字対応なども含めるならば,本来,この問題は「日本語に不自由な外国人」のみにとどまらない).
Copyright © 2021, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.