ベッドサイドの看護
病棟中が翻弄された躁うつ病患者への看護—振り返りの大切さを教えられたA氏の事例から
佐藤 久恵
1
1長浜赤十字病院精神科病棟
pp.1261-1265
発行日 1981年11月1日
Published Date 1981/11/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661919392
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はじめに
精神科病棟でいろいろ困る患者がいる.事例A氏は,学歴があり,弁が立ち,良く気がつく人であった.言ってくることはかなり正当性があるが,彼の主張は他を圧倒するような強い口調と態度であるため,病棟の他の患者や職員には受け人れてもらえず,生活全体は空回りしていた.いわゆる訴えの多いうるさい患者ということで,看護婦は敬遠気味の対応で片づけてしまいがちな人であった.
私は,A氏が病棟の不備な点や看護のルーズな所を指摘してくるのだが,自負心を傷つけられる思いで,彼の気持ちを受け止められず,ただA氏の表面的な問題行動に振り回されて,結果的には手にあまり,彼を激昂させるはめに陥った.一般的に,いったん治療過程で感情的対立を生んでしまうと,なかなか抜け切ることは困難で,患者の生活史や家族史の中での問題は置き去りにされ,その人はいったいどんな人なんだろうと考える距離を失う.私は看護婦としての自負心や,私自身のパーソナリティを傷つけられる恐れを持ち‘もうかかわりたくない.攻撃されたくない’と構える一方,そういう自分を打開しなければA氏との治療関係を結ぶことができないと考え込んでしまった.
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