医療従事者のための患者学
喪失—共にあゆむ
木村 登紀子
1
Tokiko KIMURA
1
1聖路加看護大学心理学
pp.1234-1239
発行日 1989年12月1日
Published Date 1989/12/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1541209753
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医療従事者が,日常の仕事として対座する相手は,「健康」に関して何らかの意味で「喪失」を経験している人々である.患者が喪失したものの種類や程度,経過や時期によって,患者や家族が味わう苦しみの内容も,必要とする援助も,多種多様である.そのうえ患者の個性や生き方によって,喪失や苦しみの受け止め方も援助の求め方も,それぞれ異なってくる.シリーズの当初においては,死をめぐる諸問題について「喪失への対応」として述べる予定であった.しかし,患者学の進行とともに,死を含む「喪失」が,実は「生そのもの」と常に表裏の関係をなしていることが,次第に浮き彫りにされてきた.したがって,喪失という角度から「生」や「健康」の問題を直視することが患者学の展開にとって重要と思われるようになり,「喪失」について,3回に分けて扱うこととなった.前号の「喪失一生きることへの問いかけ」に続き,本号では「"喪失"において患者や家族の直面する心理的諸問題」について事例を通して検討する.次号においては,「喪失」を乗り越えて生きることと援助のあり方について模索しよう.なお,3回のすべてが,喪失を契機として患者や家族が直面する「人間としての在り方の根本問題にかかわる問」を中心に,筆者の体験を交えて考察を試みるのは,前号に述べたようないきさつからである.
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