医療従事者のための患者学
喪失—超えて生きる
木村 登紀子
1
Tokiko KIMURA
1
1聖路加看護大学心理学
pp.61-66
発行日 1990年1月1日
Published Date 1990/1/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1541900551
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「喪失」を援助する
健康や健全さの喪失,あるいは家族や大切な人の死という喪失に遭遇するとき,われわれはさまざまな形で危機を経験する.危機においては,発達途上でやり残してきた課題に直面させられたり,普段はどうにか維持してきた家族関係の問題,あるいは経済的・社会的な種々の不備が,一気に顕在化することが多い.また,喪失を契機として,それまで見過ごされ,あるいは隠ぺいされていた,自分や家族の対人的な関係の歪みが顕著となり解決を迫られることも多い.したがって,患者や家族にとって「喪失」と取り組む過程そのものが,自他の歪みを修正する好機ともなり得るし,また,歪みや亀裂を大きくする危険性の高いときでもある.それゆえ,喪失をより良く乗り越えられるように援助することは,人間がより人間性豊かに健やかに生きることに対して,極めて重要な鍵となる.
本号では死の問題を含めて「喪失」への援助のあり方について,心理学的視点から考察する.なお,前2回に引き続き,「人間の存在としての根本問題」への問いに焦点をあてながら,筆者の体験を交えて検討を試みよう.
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