辛口リレーエッセー 私の医療論・病院論
ホスピタリティ
山口 巌
1
Iwao YAMAGUCHI
1
1福島労災病院
pp.620
発行日 1989年7月1日
Published Date 1989/7/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1541209609
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デパートには正面入口付近のデスクに帽子を被ったお嬢さんが2人くらいいて,にこやかに出迎えてくれる.それが大抵は暇なようで,売り場では客が店員の奪い合いをしているような状況でも,通常,手持ち無沙汰風である.つい,この部門はペイするのだろうか,などと浅ましい考えに走るのだが,これがサービス業の真髄なのだ.華やいだ雰囲気のなかにすっと気持ち良くお入りいただく,これでよい.やがて気持ち良くお買い上げいただいたとしても,それは余祿というものである.
ひるがえって公的病院なるわれらが職場を眺めてみる.ここは疾病を治す場にあらず病める人を支援する所である,という号令がかかって久しいが,援助の第1号であるべき案内すらなかなか思うにまかせない.そこには婦長かベテラン看護婦を配置することが多いが,これは誘導業務よりもトリアージ作業の比重が高いためだ.売り場はどこか尋ねられるのではなく,何を買うべきか聞かれるのだから,にこやかなお嬢さんではもたない.しかし,そうはいっても,さすがにクレゾール臭こそなくなったものの,玄関を入ると医事課受付と薬局窓口,そして白衣に身を固めた婦長様という構図はいつも気がかりなことではある.悪い病気ではないか,手術といわれたらどうしよう,何日も悩んだ末やっと思い切って出かけてきて,そして玄関を入って最初の視界としてはいただけない.
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