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Prof.Merritt H.H.が名著"A Textbook of Neuro—logy"を世に出したのは1955年のことで,Lea & Febigerから出版された。丁度この頃,アメリカでNeurologyを学んでいたが,この書物の初版の序で彼が述べているように,アメリカでは伝統的に精神科領域との関連の深かつたNeurologyが内科領域の枠の内に編み入れられ新しい装いをもつて活発に発展している段階にあつた。Academy of Nourologyができたのもこの頃で,"Neu—rology"が刊行された。このような状況の中で,Prof.Merrittの名著がNeurologyの発展に大きな役割を果したことは言うまでもない。内科領域での新しいアプローチの方法,ことに生化学的方法を応用することによりそれまで変性疾患と考えられていた神経疾患の代謝異常が次々と解明されるであろうことをProf.Merrittは初版の出版にあたつて,強調している。初版が出版されてから約20年を経て,1973年第5版が発行されているが,この20年間にNeurologyは著しい進歩を遂げ,彼が当初に述べたように変性疾患を始め多くの疾患の成因や病態が明らかにされ,近代的なNeurologyに生れかわつた。この間の発展の状況はまさに,本書の初版から第5版までの内容の移り変りの中によく反映されている。神経病学に対する関心は最近とみに高まり,多くの研究者がこの方面の斬新的な研究成果を発表しており,日進月歩の感が深いが,第5版ではこれらの多くの新しい所見が盛り込まれている。
本書は神経疾患を中心に,要領よく,簡潔に,ポイントを記述している点に特色があり,また多くの図表と,統計的事実がとり入れられており,理解しやすい点で高く評価されている。神経疾患では種類が多く,それぞれの臨床病理的な特徴をもつており,これらの内容を浮き彫りにするように記述することはなかなか容易なことではないが,本書では,これらの点に十分な配慮を加えながら核心にふれた記述は他に類例をみない。神経疾患の理解に必要な解剖生理学的方法や臨床神経学的検査は含まれていないが,これらのものを切り離して神経疾患の内容を主体とした点に,却つてすつきりした印象を与えている。
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