随想
矢内原忠雄氏のこと
長谷川 泉
pp.39
発行日 1962年3月1日
Published Date 1962/3/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1663904162
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矢内原忠雄氏が東大総長になったのは前任者の南原繁総長のあとを受けてであった。平賀譲・内田祥三氏と2氏つづいた自然科学系の総長に続いて2代人文科学系の総長が続いたことになる。戦時中の科学振興時代には自然科学系の総長に期待されるものがあったが,思想的に困難な時代に処するには自然科学系の総長では輿論を担ってゆくことがむずかしい事情もあったように思う。
南原総長がフィヒテばりの講演で学生を教導し,また一般ジャーナリズムもその論旨に注目したのは,自然科学系の総長になかった転換であった。誰かの作文を卒業式や記念日に読み上げるような性格のものではなく,その人の全人格,思想体系,学問の地盤からにじみ出る内容と迫力が世を注目させるようになった。その点は矢内原総長も同様であった。
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