一頁評論
心理学者から見た医師
早坂 泰次郎
1
1立教大学社会学部
pp.64
発行日 1977年3月1日
Published Date 1977/3/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1541206184
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何年か前,まだ幼稚園児だった息子を抱いてある大学病院の救急外来に駈けつけたことがある.うちの食堂で椅子ごとひっくりかえって頭を打ち,様子がおかしくなったのだ.素人目にも脳振盪を起したらしいとわかった.私は平素看護婦さんたちと接触が多く,その病院でも総婦長をはじめ婦長やスタッフに知人はたくさんいた.誰かに電話を入れておけば心強いのだが,ちょうど日曜日で,ままならなかった.しばらく様子を見ていたが,やや状態が落着いたので,念のためにみておいてもらおうと,車で駈けつけた.
病院に着き,やっと呼ばれて診察室に入ると担当の若い医師が全く無愛想にこちらの説明を聞いていたが,それでもレントゲンを撮ってくれた.現像ができるのを待つ間に,こどもはいつもの元気をとり戻していた.現像ができ,再び診察に呼ばれて,レントゲン所見では何も異状が認められないことが告げられてホッとしている私には全く無断で,その医師は立会っているナースにこう言った.「ルンバールの用意して.こどものルンバールできるかい?」ナースは一言も答えなかった.私はその無言が自信のなさのせいであるのを感じた.
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