特集 医療の拡大がもたらす社会の厚生―医療費亡国論再考
巻頭言
河北 博文
1
1医療法人財団河北総合病院
pp.253
発行日 2010年4月1日
Published Date 2010/4/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1541101666
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『いま医療費は,財政再建・行政改革の上でも予算編成の上でも,租税・社会保障負担の上でも,最大の問題の一つである.(中略)あらゆる面にわたって公共的経費の見直し,洗い直しが行われているのであるが,医療費に対する風当たりは,それが公共的経費の中でも巨額であるし,その伸び率も著しく高いこともあって,その風圧はかなり高い.このまま医療費が増えつづければ国家がつぶれるという発想さえ出ている.これは仮に「医療費亡国論」と称しておこう.』
この文章は1983年3月に『社会保険旬報』に掲載された,当時の厚生省保険局長 吉村仁氏の論文の出だしである.この論文では,国民負担率が上昇すると当時の英国や西ドイツ,スウェーデンのように社会の活力が失われてしまうという危惧を示し,そのためには公共医療費の総枠の抑制と治療中心の医療から,予防・健康管理・生活指導などに医療の重点を置くことが効率的であると述べられ,さらに医療の需要と供給ともに過剰であり,医師養成数の下方修正,病床数の削減,高額医療機器導入の制限などが提案されている.また同時に,地域医療における医療機関のネットワークの重要性や質のよい医療へ医療費の重点配分なども示されている.
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