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医療費の微増とそれどころではない現場の事情
厚生労働省は,2006年4月の改定で医療機関に支払う診療報酬を過去最大の3.16%引き下げたにもかかわらず,2006年度の医療費が32兆4,000億円で,前年度よりも約400億円増えたことを明らかにした.これは,医療を必要としている高齢者などの数が増え,調剤費が嵩んだためである.小泉政権以降の改革路線は,医療の領域では確実に壁にぶち当たっている.
一方医療の現場は,相変わらず医師不足や看護師不足に悩まされている.厚生労働省の諮問機関である「中央社会保険医療協議会(以下,中医協)」は,診療報酬の2008年度改定での主な検討項目を発表した.具体策としては,①開業医の夜間診療や往診の報酬を引き上げ,勤務医の過重労働の負担を軽減すること.②産科,小児科の診療報酬を手厚くすること.③医師の労力を減らすためにカルテ管理等の事務作業を代行するスタッフも,診療報酬の評価対象にすること.④地域の中小病院が緊急入院や短期入院の患者を受け入れやすくするために,診療報酬の算定を考え直すこと.そして,これらの病院が地域医療のネットワークの中核になることなどを打ち出す予定である.
こうした背景には,2004年度に医学部での卒後臨床研修が必修になったのをきっかけに,地方の医学部卒業生が大都市に流れる傾向が強まり,医師が地元に留まらなくなったこと,また病院での過酷な勤務条件やそれによる医療事故,訴訟などのリスクを回避するために,病院を辞めて診療所を開業する医師が増えたことなどが挙げられる.その結果は,過疎地の病院の増加,少子化の影響や経営難,過重労働などによる小児科医や産婦人科医の減少となり,病院によっては診療科を閉鎖したり,産科や小児科の取り扱いを休止したりする動きが出てきた.
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