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はじめに
医療機関において医療事故防止を推進し,安全な医療を提供していくためには,個々の医療従事者の患者安全確保に対する意識改革が求められる一方,医療事故防止における組織的な取り組みが不可欠である.医療は,複雑かつ高度化しており,さらに医療サービス提供プロセスには多くの医療従事者がかかわっているため,医療従事者個人の努力では対処できない問題があるからである.
医療機関における安全管理体制の構築は,部門や職種ごとの安全管理体制のみならず,組織横断的に安全管理を担う体制作りが重要であり,病院管理者の責務である.医療安全管理を機能させるために中心となって活動する役割をもつリスクマネジャーの配置が試みられ,その後,診療報酬制度にも反映されることになった.
米国では,アメリカ・ヘルスケア・リスクマネジメント学会(American Society for Healthcare Risk Management:ASHRM)がヘルスケア・リスクマネジャーの認定を行っている.ASHRMでは,ヘルスケア・リスクマネジャーの業務範囲を,①損失の防止と回復,②訴訟管理,③リスクファイナンシング,④規制と認定,⑤リスクマネジメント・オペレーション,⑥生命倫理,の6領域に分類している.これらの業務内容は,米国におけるリスクマネジメントが医療事故による訴訟対策が発端となっているとされ,「組織体」における損失予防という意味合いが強いものとなっている.
一方,わが国では,医療機関におけるリスクマネジャーの組織的位置づけは様々であり,その役割や機能について標準的なあり方が十分に検討されてこなかった.
本稿では,平成13(2001)年度に実施した医療技術評価総合研究事業「医療機関におけるリスクマネジャーの機能に関する研究」(主任研究者井部俊子)の結果を元に,医療安全に取り組む医療安全管理者の実態を報告し,わが国における医療安全管理体制のあり方について考察したい.
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