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医療は,本来,患者と医療従事者,ひいては医療に対する信頼の下に提供されるべきものであるが,昨今,医療事故の発生によりその信頼が大きく揺らぎかねない状況となっている.このため,医療事故の防止を図り,医療に対する国民の信頼を高めることは,現在,医療政策における緊急の課題となっている.
頻発する医療事故は,1990年代後半から,欧米諸国においても大きな社会問題となっていた.米国医学院(Institute of Medicine;IOM)内に設けられた「米国医療の質委員会」は,1999年11月に医療事故の予防に関する包括的な報告書『TO ERR IS HUMAN(人は間違うもの)』(以下,IOM 報告)1)を取りまとめたが,それによると,ニューヨーク州およびユタ・コロラド州の主要病院でのカルテ調査による医療事故死亡の発生頻度を全米の入院患者に適用した場合,年間の医療事故による死亡者数はニューヨーク州のデータに基づくなら9万8千人,ユタ・コロラド州のデータに基づく場合は4万4千人にのぼり,いずれの場合も交通事故死亡(4万3千人),乳癌による死亡(4万2千人)を上回るとされている.また,入院患者の3%前後は入院中に事故(医学的関与に起因する有害事象)を経験していることが報告され,大きな反響を呼んだ.
これを受け,2000年2月には,政府の各省調整作業委員会から行動計画「Doing What Count For Patient Safety」2)が発表され,この報告に基づいて当時のクリントン大統領が「5年間で予防可能な医療事故を半減する」と宣言し,現在取り組みが推進されている.また,英国および豪州も,2000年には医療安全に関する戦略計画3,4),2001年には行動計画5,6)を発表し,国を挙げて医療安全の推進に向けた取り組みを始めたところである.
一方,わが国においても,1999年1月に発生した手術患者の取り違え事故を契機に,行政をはじめ,個々の医療機関や関係団体などにおいて様々な取り組みが推進されているところである.
本稿では,まず,医療安全の推進に向けた基本的考え方について述べ,さらに,厚生労働省がこれまでに実施してきた医療安全対策と今後の方向について概説する.
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