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はじめに
私は,一昨年(2001年)11月,『21世紀初頭の医療と介護―幻想の「抜本改革」を超えて』を出版した1).この拙著で私が最も強調したことは,通説とは逆に,「医療保険の『抜本改革』は幻想であり,わが国で必要なのは部分改革の積み重ねと医療者の自己改革である.それを行えば未来は決して暗くない」(はしがき)ことである.
ただし,私は「守旧派」ではなく,「医療者が国民が納得できる部分改革を提言できず,自己改革を行わなかったならば,未来はやってこない」とも考えている.そのために,拙著では,個々の医療機関レベルでの3つの自己改革と個々の医療機関レベルの改革を超えたより大きな2つの改革を提起した.私は,国民皆保険制度を維持しつつ医療の質を引き上げるためには,世界一厳しい医療費抑制政策を転換し,公的医療費の総枠を拡大する必要があると考えているが,これらの改革を実施しない限り,国民の医療不信は解消できず,それは実現しないとも思っている.
拙著出版後1年余が経過したが,「医療保険制度抜本改革」は,医療関係者の間では,死語となりつつある.厚生労働省幹部は,一昨年3月以降,「医療保険抜本改革」という用語の使用を意識的に止めているし,日本医師会をはじめとする医療団体幹部も,最近は,それが困難・不可能なことを異口同音に認めるようになっている.
他面,同じ期間に,医療提供制度改革については,2種類の抜本改革論が強まった.一つは株式会社の病院経営参入論,もう一つは一般病床半減説である.そこで私は,昨年 9月に,両説を批判した以下の2論文を発表した.「株式会社の(医業経営)参入には反対だが,医療法人制度の改革も必要」2),「一般病床半減説は幻想」3).
本稿では,これら3つの拙著・拙論をベースにしつつ,最新の情報と文献を加えて,「21世紀初頭の医療改革と民間病院の役割」について,次の3つの柱に沿って,包括的に検討したい.まず,21世紀初頭の医療・社会保障制度改革の3つのシナリオとその実現可能性について簡単に述べる.次に,医療提供制度に関する上述した2つの「抜本改革」論について順次検討し,その実現不可能性を示す.最後に,医療者自身が取り組むべき自己改革と制度の部分改革について,問題提起を行う.その際,読者の関心と心配が特に強いと思われる一般病床半減説と病院病床の機能分化については,拙論「一般病床半減説は幻想」よりもさらに踏み込んで検討する.いずれについても,①私の事実認識,②私の価値判断を含まない「客観的」予測,③私の「主観的」評価・価値判断の3つを峻別するとともに,それぞれの根拠を示す(evidence-based).
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