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はじめに:公的病院改革がなぜ問題となるのか?
日本経済の変調と高齢化の進行の中で,病院を取り巻く経済環境はますます厳しくなっている.患者負担の引き上げや,診療報酬改定による病院の機能分化の経済的誘導の導入によって,民間・公的を含めた病院間の連携と競争はいよいよ本格化している.
元来,病院が提供する医療サービスは,医師・看護職などの専門職者の確保と設備構造・人員基準の遵守など様々な規制が働くために,「参入障壁」は他のサービス業と比べてはるかに高いという特徴を持っている.他方,医療サービスの経済環境が厳しいからといって,医療は優れて高度専門的であるため他のサービス業に容易に転換できる業種ではなく,「撤退障壁」もまた非常に高い特徴も兼ね備えている.一度参入したら,撤退できないという医療サービスのこうした特徴は,その「構造転換」が容易でないことを意味する.したがって,医療サービスの市場が縮小・抑制される現状において,それぞれの病院は生き延びるために競争相手のパイを奪ってくるという共食い現象が発生せざるを得ない.
公的病院の赤字経営はこれまで何度も問題にされてきたが,今日の問題状況は過去の歴史の繰り返しではないことに注目する必要がある.さらに各都道府県・市町村の財政悪化は,自治体立病院の放漫経営をもはや許容できないところまできており,北海道・東京都・神奈川県・大阪府・長崎県など各自治体で病院改革が加速されているのはそのためだ.自由民主党医療基本問題調査会が「公的病院等のあり方に関する小委員会」を設置して,公的病院の見直しを精力的に進めているのもその一つであり,医療保険制度改革と連動して保険料財源の投入によって維持・運営されている社会保険病院のあり方が標的とされた.そして,同小委員会の『今後の公的病院等の在り方について』(平成14年11月20日)では,社会保険病院について,「現行の運営委託方式を見直し,民間病院と同様の自立した健全経営が行われるような効率的なものとし,新しい経営形態への移行等が適切な病院は迅速に対処すべきである」と具体的な改革プランを示している.
公的病院はこれまで,「住民の暮らしと命を守る」,「地域医療の確保」という目標を掲げて医療サービスを提供してきたが,民間病院を含めた医療供給体制の整備と自治体財政の悪化の中で大きな見直しにさらされている.特に民間病院からは施設整備や人件費などへの公的資金の投入について,不公平な競争と税金のむだ遣いの両面からそのあり方が厳しく問われている.
そこで本稿では,福岡県の五つの県立病院の改革の検討から明らかとなった自治体立病院の問題を述べるとともに,四つの県立病院の民間委譲と一つの公設民営方式への移行という抜本的な改革案を提示するに至った背景を考えることにする.もちろん,この改革プランは福岡県行政改革審議会の答申にとどまり,具体的な実行は今後の行政次第である.既に五つの県立病院を抱える市町村において,民間委譲による改革プランの説明も兼ねた「地域医療シンポジウム」が始まっているが,労働組合や地域住民からの反発は大きく,改革の実現まで順調でないことが予想できる.本稿は,福岡県行政改革審議会の『福岡県立病院改革に関する答申』(平成14年9月18日)(以下,『答申』)取りまとめに加わった委員による個人的な解説と考察であり,福岡県行政と審議会を代表するものではないことをお断りしておく.
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