とびら
その根底に流れているもの
斉藤 みち子
1
1千葉市立海浜病院
pp.563
発行日 1988年9月15日
Published Date 1988/9/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1518104087
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土曜日の朝,耳慣れた靴音が,再来窓口を結ぶ廊下から,しだいに大きくなってくる.パッタン,パッタンという,右健脚を振り出し,着地する音が,人一倍大きく聞こえる.もう,三年近くの付き合いになる.外来通院を始めたときには,すでに発症後二年が経過していた.脳出血,左片麻痺,53歳,女性.家庭内ADLはすべて自立しており,屋外杖歩行も可能であった.しかし,その日,本人自ら訓練室に入ってきたとき,アームスリングに隠れた左手が,すべてを語っていたようだった.そして,その真剣な眼差しとその迫力に,圧倒されてしまったことを憶えている.
在宅障害者,特に老人片麻痺の“生きがい”について思うとき,あまりにも多くの問題が山積みにされているのに驚く.障害をもちながら,人生を全うするまで生活していく.QOLということばを知って久しいが,その“生活の質”,“人生の質”を高めるのには,どうしたら良いのだろうか? 通院患者のもっている社会的背景なり,人生への価値感などについて話すたびその奥深さを思い,微力な自分を思い,チームアプローチの必要性を思うのである.
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