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Ⅰ.初めに
本稿は「精神障害者の職業」論と言えるようなものではない.むしろ心身障害者職業センター(以下職業センター)という,いろいろな障害者の就職問題を中心とした職業相談や職業評価を業務としている相談・評価機関としての窓口から,各種の障害者の中に混じった精神障害者と毎日毎日接触していて,その職業問題を中心に感じる断片的な感想であり,精神医療の外で,多少でも精神障害者に正規の業務としてかかわりをもつ者の一人としての私見であることをまずおことわりしなければならない.
その理由は,①量的に言っても,質的に言っても,現在精神障害者の職業問題の解決にもっとも多く携わっているのはやはり精神病院(一般病院の精神科,精神科クリニックを含む),精神衛生センター,保健所,そして小規模作業所,また数は多くないがリハビリテーションセンターや福祉施設等々で日夜営々と働らいておられる精神医療関係の従事者の皆さん方であり,職業センターなどではないと考えられること,②職業センターは公共職業安定所(以下安定所)をバックアップすることを主な目的としているが,その職業センターおよび安定所の両機関が,精神障害者であることを明らかにしたうえで取り扱う精神障害者の数は,職業問題を抱える精神障害者の何分の一にもならない微々たる数に過ぎないと思われること,その意味でも精神障害者の職業の専門家ではないからである.
安定所,職業センターの両機関が,職業問題を抱える,多分膨大な数になると思われる精神障害者の中のごくわずかしか扱っていない現状,大多数のニーズをもつ精神障害者を扱いえないでいる実情こそ,精神障害者が職業問題でさえも精神医療の枠内から抜け出えないでいること,そして精神医療の外の諸々の分野も精神障害者のもつ問題に対処しなければならないのに,対処しえていない事実を示していることを物語っていよう.またこの事実は精神障害者の職業問題が現在置かれている社会的位置付けをも端的に示しているものでもあるし,精神障害者が職業的にどんな状態に置かれているか,つまり精神障害者の職業がまだ社会的に正規の座を占めえていないことを象徴する一端と言えるものではないだろうか.
なお本稿の役割は,上述のように職業センターは障害について言えば雑貨店であり,精神障害者を専門とする立場に無いが,精神障害者以外の障害者もたくさん扱う窓口であるので,その他の障害者と種々比較しながら精神障害者の職業問題について少しでも示せるかどうかを試みることにあると考える.
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