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Ⅰ.はじめに
多くの関係者,特にてんかんを有する本人諸氏の指摘や要望にもかかわらず,てんかんを有する人々の雇用問題に対する取り組みは,これまでたいへん立ち遅れていた.その理由の第一は,てんかんが基本的には「疾患」であるため,医学的治療の対象のみに限定して考えられてきた,ということである.「治す」ことのみに情熱が注がれ,治療を受けながら,薬を飲みながら(すなわち医療的管理を受けながら)生きる,というアプローチが弱かったのである.
取り組みの弱さの第二の理由は,てんかんを有する人々の雇用上の実態が明らかでなかったという点にある.本人や家族の体験においては,その悩み・ニーズは痛いほどわかっているが,総合的・体系的には把握されていない.とくに,行政の統計においては,「てんかん」としての対策が無いため,すっぽりと抜け落ちているのである.
また,雇用において「てんかん」の何が,どのように影響しているか,どのようにすれば,援助につながるかが,充分に明確ではない.その分析・研究が,ほとんどなされていない,というのが取り組みの弱さの第三の理由であり,また逆に結果でもあった.
しかしながら,国際障害者年を契機とした「障害」の構造的理解の一般化は,「疾患」と「障害」の共存,あるいは連続性を常識化した.その結果,長期慢性疾患の雇用問題に関心が高まり,急速に取り組みが進んでいる.
我が国においては,(社)日本てんかん協会を中心に,「てんかんリハビリテーション研究会議(1983年~)」「てんかんと雇用に関する専門研修セミナー(1986年)」の開催.「就労実状調査」の実施(1984年)とその報告書の発行(1985年)など,が行われた.
また国際的には,国際てんかん協会が「雇用に関する委員会」を編成し,第17回国際てんかん学会議(1987年9月)においては,主要テーマの一つに選ばれ,活発な討論が行われた10).
しかしながら,関係者の関心の高まりにもかかわらず,実質的な取り組みが進んでいるとは言い難い.制度的保障は,「職場適応訓練制度」への対象化くらいであり,身体障害者雇用促進法が大幅に改正された新法においても,具体的な対策は,まだ何も用意されていない.そのため,改めて問題点を整理し,制度化する必要を痛感する.
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