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講座
摂食 4.摂食の心理的側面
Eating Mechanism 4. Psychological Aspects of Eating Disorders
馬場 謙一
1
Kenichi BABA
1
1群馬大学教育学部心理学科
1Gunma University.
pp.611-614
発行日 1985年9月15日
Published Date 1985/9/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1518103400
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はじめに
我々は日常よく「今日はどうも食欲がない」とか「最近食欲がありすぎて困る」とかいうように,食欲という言葉を何気なく使っている.そして食欲があれば空腹のせいで,食欲が無いのは満腹のせいだ,というように食欲の有無を食物を十分とったかどうかと結びつけて考えていることが多い.
しかし,ちょっと考えてみると分かるように,食欲と食物摂取量とは必ずしも平行するものではない.例えばカゼで身体の調子が悪かったり,試験で緊張していれば,いくら空腹でも食欲は無いし,健康で仕事がうまく進んでいる時には,ふだんの量では食欲はおさまらないだろう.
また食欲だけを取り上げてみても,これにはその時の感情や身体の状態の他に,見た目にきれいであれば食欲も増すというように,食欲には視覚,嗅覚,味覚などの感覚が密接に関係しているし,胃の膨満感など,内臓知覚の影響も無視できない.このように,身体的,精神的なもの全体が深く関与しているのが食欲であって,1940年代の摂食中枢の発見以来,種々の身体的基礎の研究が進められているにもかかわらず,未だに食欲について明確にされていないのはこの複雑さのためである.
一方,その食欲がなくても心理的原因から摂食量が増したり,逆に食欲があっても摂食せずにひどくやせていったりする場合があるというように,摂食量についてみると,食欲よりさらに事態は複雑になってくるといえるだろう.
本稿では,このような人間の心身のあり方の全体の表現としての食欲や摂食量について,もっぱら心理的側面から考察することが主題である.ここでは,主観的な欲求である食欲よりも,客観的に捉えられる摂食量の増減を指標として分類を試みた.
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