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特集 精神遅滞
<資料>わが国の精神遅滞対策の変遷
History of Services and Countermeasures for the Mentally Retarded Persons in Japan
江草 安彦
1
,
浦崎 源次
2
Yasuhiko EGUSA
1
,
Gengi URASAKI
2
1旭川児童院
2旭川荘厚生専門学院
1Asahigawa Jidoin Children's Hospital.
pp.313-318
発行日 1985年5月15日
Published Date 1985/5/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1518103323
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1.はじめに
精神遅滞についての関心と理解は,近年著しく深くなってきた.ことに国際障害者年を契機として「完全参加と平等」を求める方向へすすみ,この傾向は加速されてきていると言ってよいだろう.わが国の精神遅滞に関する医療・福祉・教育・就労の諸施策は整備がすすみ,今日では先進諸国のうちに数えられている.しかし欧米諸国の精神遅滞に対する諸施策は17世紀末から始められ,今日までに200年の歴史を持っている.それに対し,わが国では明治なかばから,一部の有志によって先駆的な努力が続けられたが,本格的な施策は昭和22年の児童福祉法,学校教育法によってもたらされたのであるから,わずかに40年余の歴史をもつにすぎない.したがってわが国の施策は今後見直し,発展させ,すき間を埋める必要がある.また精神遅滞が市民に理解され,市民社会の一員として迎え入れられるに必要な市民社会の成立のプロセスの相違を考えると,本格的な取り組みを今後に期待しなければならない.ちなみに1862年,福沢諭吉は,オランダのハーグ市にある痴児院を訪問し,その模様を「写本西洋事情」により紹介している.また1876年,田中不二磨はアメリカのフィラデルフィアにあるアーウィン・トレーニング・スクールを訪問し,「米国百年期博覧会教育報告」で紹介している.
このトレーニング・スクールで内村鑑三は,看護人として働き,帰国後の著作,講演において精神遅滞について触れている.これらの人々が当時のわが国の精神遅滞対策の実状と欧米との差の大きいことに驚いたであろうことは容易に想像することができる.当時,わが国には,このようなものが存在しなかったのである.
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