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講座
痴呆 4.老人のボケと痴呆の心理的背景
Dementia 4. Psychological Background of Dementia in the Aged
井上 勝也
1
Katsuya INOUE
1
1東京都老人総合研究所心理研究室
1Tokyo Metropolitan Institute of Gerontology.
pp.245-250
発行日 1985年4月15日
Published Date 1985/4/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1518103306
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はじめに
老化性痴呆といわゆるボケは概念的には区別さるべきものである.にも拘らず,学術用語と日常語の混乱という以上に,これらのことばの概念的混乱は深刻であり現実に専門家の間ですら,これらのことばが混同して使われている.同一の症状に対して,その病者に時には痴呆,時にはボケのレッテルが貼られたりすることもみられるのである.
柄澤11)によれば,ボケは,原因の何たるかを問わず,多少とも持続的で全般的な精神活動の低下の状態,とくに知的能力の低下した状態を指し,多くの場合,何らかの病気によるもの,病的なもの,であるという.従って,加齢に伴って多くの人が示す軽度の低下は,ボケの範囲には入らず,その程度の低下では,ボケとは呼ばれないという.
また,痴呆は,ボケの範疇に含まれるが,よリ明確に「脳の器質性病変によって生じた全般性の知能低下で,回復不能のもの」を指すという.
結局この柄澤の基準に従えば,多くの老人が加齢とともに示す(記憶が悪くなるなどの)軽度の知的低下は,ボケではなく,ボケは必ず病的な背景をもったものであり,その中には,脳の器質性病変を基盤とする痴呆が含まれる,ということになろう.
本論においては,ボケや痴呆の概念は柄澤の基準に準拠し,ボケの範疇に入らない加齢とともにみられる軽度の知的低下を「正常老化」と呼ぶこととする.以下,その両者の比較をとおして,ボケと痴呆の心理的背景とくに,知的側面を中心に考察してみたい.
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