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はじめに
現在当センターにおいては,脳卒中後遺症の片麻痺患者が全体の約7割を占めている.この中で40~50歳台の対象患者が最近増加しつつある現状である.これら中年層の片麻痺患者の多くのニーズは,身体機能の回復のみならず家庭で中心的位置を占めている場合がほとんどである1).このような人にとって職業復帰は機能回復にもまさる最大のニードであるといっても過言ではない.
職業復帰に関して当センターでは作業療法士が中心となり,休職中の患者に対しては作業抽出法による職業前訓練を行い,新規就労者の場合多種目にわたる職業前評価を行った上で分折を行い方向性を見い出しているが,現在の不況の中で,身体障害者雇用促進法による雇用もあまり進んでいない中での新規就労の難しさと直面している2).
このような中で,京都市経済局が調査した京都市内の事業所実態を見ると3),全事業所数約10万であり一事業所あたりの平均従業員数7.2人となり,他の10大都市と比べ平均2~3人少なく京都市の事業所の零細性を示している.この全事業所の54.6%が繊維工業関係の事業所で占められている4).これらは西陣・友禅に代表される伝統産業関連業種がほとんどである.
このような京都市の産業構造の中で,身体障害者の雇用を考える場合不況ではあるが繊維工業より就労可能な種目をみつけるのが有意義と考えた.中でも伝統産業の工程は古くから細分化され規模が小さく機械化されず手作業として多く存続しており,京都市伝統産業従事者実態調査5)によれば,西陣・友禅を中心に多くの身体障害者が就労しているのがわかる(表1).
今回のこの業種の中よりセンターから原職へ復帰したケースのある友弾トレースを抽出し身体障害者の新規就労の可能性をみた.
友禅トレースとは,友禅工程の中で下絵を描いた次の工程で比較的熟練度が低くてすみペン習字に似た作業内容である(図1).すなわちペンと墨汁を用い透明なセルロイド板上に下絵を写して行くものである(図2).なおこのように写されたセルロイド板は青写真の要領で焼き付けさせ,さらにそれを用いて生地に糊が置かれ「染め」の工程に移ってゆく.このトレース工程の利点として事務机程度の広さの机と簡単な道具で可能な坐位作業であるので移動に問題のある片麻痺障害者でも職業に結びつく可能性のある工程の一つと考える.
収入面でみると,友禅では9~10万円程度の収入が最も多く,家庭での内職よりも高収入であり技術の向上により増収も可能である(表2)6).
このような見地により片麻痺患者のみならず在宅障害者に対しても今後アプローチの可能性があると考えられる.
今回は,健常者および片麻痺患者に対し,完成時間測定たらびに作業結果・年齢により職業的価値の差がどの程度出現するかを比較検討した7).
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