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Ⅰ.はじめに
痛みは,不快な体験として,人類はじまって以来,臨床医学の対象となって来たが,これがある疾患の主症状であったり,あるいは随伴する症状であったりする.さらに疼痛の知覚と共に,生体は疼痛反応(pain reaction)をひき起こすものであり,他方これらの反応は疼痛がなくても惹起されるので,疼痛の知覚(pain sensation)と疼痛反応(pain reaction)とは厳重に区別すべきものといわれている.
日常疼痛が問題となるのは,腰背痛,肩こり,五十肩や関節リウマチなどの関節痛,これらは運動器の疼痛の代表的なものであるが,同時に,内臓諸臓器疾患たとえば胃・十二指腸潰瘍,胆石,腎結石のごとき結石症,あるいは虚血性心疾患,たとえば,狭心症や心筋梗塞の痛みなどは関連痛として受けとられる可能性がある.
運動器や内臓由来の疼痛は,深部痛覚として表在性の皮膚や粘膜由来の疼痛とは,その性質上,区別されている(表1).他方,脳卒中後のヒペルパチーや視床痛,あるいは四肢切断後にみられる幻肢痛,脊髄損傷患者の後期に見られるanesthesia dolorosaなどは中枢性疼痛としての特色を有し,さらに,末梢神経損傷ことに正中神経損傷後によく見られる灼熱痛カウザルギーや,癌末期の患者にみられる頑痛(intractable pain)は,その疼痛の激しさゆえに,人格の崩壊を来たすほどである.灼熱痛は,自律神経関与の疼痛と考えられているが,外傷後に見られるSudeck骨萎縮,反射性交感性ジストロフィー,reflex sympathetic dystrophy,肩手症候群などもこの範疇に入る疾患と考えられる.
Bonicaの成書によれば疼痛は便宜的に次のごとく分類されている.
1.末梢性の痛み:
a)表在性:皮膚,粘膜の痛み
b)深部痛覚:運動器,内臓
c)関連痛:刺激と離れた部に痛みを感じる
2.中枢性の痛み:
a)視床痛,ヒペルパチー,幻肢痛など
3.心因性の痛み:
a)器質的な刺激の原因の見当らない疼痛
疼痛は,科学的に取扱おうとする試みが色々なされるが,解剖学の問題であったり,生理学の問題であったり,あるいは薬理学の問題であったり,さらに心理学,精神医学の問題であったりするが,生理学的に取扱う時には,疼痛の受容器,伝導路,中枢および表出系とが問題となる.
生体に有害な刺激が加えられる時に生ずる感覚が疼痛であるが,この感覚と過去の経験とが組み合わされて色色の疼痛反応を生じる.この疼痛反応は,自律神経反射でもあり,叫び声を挙げたり,血圧上昇し,瞳孔散大し,呼吸脈拍が促進するなどであるが,これらが疼痛刺激がなくても起こりうることは先に述べた通りである.
疼痛の研究で直面する困難は,これが主観的体験であって客観的な尺度のないこと,動物実験では,果たして疼痛そのものをみているのか疼痛反応をみているのかはっきりしたいこと,病理学所見,X線所見と疼痛が直接的に結びつかない点などである.
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