Japanese
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特集 脳卒中
成人片麻痺の患側上肢に対する治療
Neuro-Developmental Treatment of the Affected Arm in Adult Hemiplegia
紀伊 克昌
1
Katsumasa KII
1
1ボバース記念病院
1Bobath Hospital.
pp.623-627
発行日 1982年9月15日
Published Date 1982/9/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1518102695
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Ⅰ.患側上肢を治療する理由
1.両側活動の合理性
我々が日常的に行っている上肢動作の大部分は,大脳の優位半球支配による利き手によって遂行されているように見える.しかし,優位半球と利き手の成立過程に目を向けてみると,左右両側の対称性発達が前提となっている.正常児の生後3か月頃の運動発達パターンは,正中位指向という言葉で表現される通り,両上肢が同時に身体の正中線に向かって運動するのが特徴である.両手をおしゃぶりしたり,両手で衣服や夜具を引きあげたり,ガラガラを両手でつかんでいたり,胸の上で両手を合わせたり,両手を空中にさし伸ばして見つめたりして,5か月頃には両足を両手でつかんで遊んだりする.こうした動作を幾度も繰り返しながら,身体両側の固有覚,運動覚,触知覚などの感覚情報を上位中枢神経回路で統合し,両側脳機能を成熟させている.次の発達段階では,全身性屈曲パターンもしくは全身性伸展バターンによる両側性活動から,体軸内回旋パターンが導入されて,左右の上下肢の一肢が独立して活動するようになる.人間社会環境に適合した合理性を学習していく過程が正常発達過程であり,上肢は両側活動→左右均等機能活動→一側優位活動の順序性がある.こうした過程を前提として利き手が成立しているので,脳卒中患者に健側を主として使用させるにしても,患側が幾分かでも活動に参加することが,動作全体を合理的にし,それだけ消費エネルギーの浪費を少なくすることができる.老人にとって動作ひとつひとつに克服努力や精神的緊張を要求されるのは,大変疲れることである.
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