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はじめに
我々は,精神分裂病を中心とした社会復帰医療施設の中での入所時の評価,デイケア活動,就労援助,アフターケアなどの一貫した社会復帰活動を十年来続けている.
今回,編集者からの依頼によって「精神科の前職業的評価」という課題に直面して,いささか困惑している.それは今までに実習生や新設のデイケア施設から「社会復帰の評価表やその基準はたいのですか」などといった質問や依頼を受けた時の気持に似ている.ご存知のように,この分野における実績や発表は数少ないのが実情であり,現状では数枚の評価用紙に集約されるほど整理されているわけではない.既存のごく限られた枠組の中での内職(造花や荷札,雑誌の付録づくり)や園芸などの作業だけで興味,関心,持続性,作業意欲,巧緻性などを2とか5というように評価したり,また,手工芸などを通して対象関係,投影,象徴がどうであろうかなどと分析してみても,社会復帰しようとしている対象者や受け入れる社会にとってどれだけの有用性があるのか疑問である.それらをのり越えるだけの「評価表」をいまだに作りえないもどかしさを感じるのは,筆者だけではあるまい.また,専門家による実践もなされず内容もあまり吟味されない中で表面的な評価表に頼ろうとする安易な考え方に腹立たしささえ感じるのである.
菊池1)によれば身障系の前職業評価や訓練(以下P・Vとする)の概念や範囲は歴史も浅く狭義の職業(vocation)を中心としたP・Vから広義の重症,重度化する障害に対する作業(work)にまで広げた職業前作業療法を指すといわれている.
身障系からもち込まれたP・Vは精神科ではなじみが薄い.あえていえば精神科リハビリテーションの中の一部に包含され,まだ確立されていない.それはおそらく精神科の特殊性に由来すると思われる.
表題は評価なっているが精神科の場合,身障系のように評価と治療・訓練が截然としておらず,しばしば評価のための活動が治療・訓練を伴っていたり,治療,訓練が評価になることもあるといった表裏一体の関係があることを一応了解していただきたい.
ともあれ,ここでは我々の活動の中から身障系のP・Vに対応して精神科のP・Vの方向づけ,社会復帰をめざした評価と活動などの輪郭について考えてみたい.
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