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Ⅰ.はじめに
人間は,孤立して存在することができない社会的存在であることは論を待たない.したがって,人間と人間のコミュニケーションは人間の行動の中では,最も大切な行動ということができよう.この対人関係的行動の中でも,最も自然な交流様式が,言語交流を中心にしたいわゆる対話という形式である.このごく自然な対人交流様式を用いて行われるのが面接という形式である.
面接には,本誌でとりあげた色々な面接がある他,社会の色々な分野で,調査,観察などの手段として用いられる.入社試験などでも,ペーパーテストでふるい分けをした後,幹部スタッフによる面接試験が行われることが多い.これはとりも直さず,どんな仕事でも,対人的な態度が非常に重要な部分を占めているからということができよう.
医療の中で,面接が用いられるのは,精神医学の領域には限らないが,面接が重要な役割を果たすのは,診断行為,治療行為のためにコミュニケーションを必要とする時である.
診断行為では,診断のための大切な情報を正確に捉えるということと,言語的なコミュニケーションの過程に見られる客観的な反応を把えることによって,人格を観察するという意味において重要な役割をはたすことになる.
治療行為においては,治療に関するオリエンテーションを行うこと,治療についての契約を交換すること,治療者と患者の間に起こる情緒的交流を利用して患者の人格に好ましい変化を起こす―精神療法―ことなどのために面接が重要な技術になってくる.
さて,この二つの行為は,しからば明らかに異なった目的で,異なった方法で行われるのかということになると,必ずしも明確に分けられるものではない.その関係について考えてみると,まず,十分な情報を得ようとするならば,ある場合には,プライバシーに属する重要な秘密事項を語って貰う必要があるわけであるが,このようなことを語るような場合というのは,語る者と聞く者の間に,かなりの程度の信頼関係がなければ不可能である.そのような信頼関係というものは簡単に作られるものではなく,時には,何時間も何日もかけてやっと語ってくれるということになる.このことは,診断にとって重要であると同時に,すでに治療的意味を持っているということになる.また,語る者の気持や考えを正しく理解するという行為は,診断的に重要であるというだけでなく,治療においても,すべての前提になるといっても良いほど重要なことになる.
したがって,面接の中には,診断的な意味と治療的意味が常にオーバーラップしており,どちらに主な目的があるかということによって,診断面接あるいは治療面接と仮に呼び分けるに過ぎないといっても良かろう.
このことは,要するに,面接が生きた人間関係の中での直接的なコミュニケーションを使用するということから起こってくることであり,次のことを意味している.
すなわち,どんな診断面接においても,二者の間の情緒的交流を無視しては行われ得ないということ,次にどんな治療面接においても,新しい診断資料を得ることができるということである.したがって,ここで医療における面接ということを概念化してみると,“二者間の情緒的交流を支えとして行われ,診断的,治療的目的のために行われる言語的交流を主にしたコミュニケーション”ということができよう.
さて,本項では,総括的に,面接について考えておかなければならない基本的な問題をいくつか取りあげて述べてみよう.色々な場面でのより詳細な面接技術などについては後の著者にゆずりたいと思う.
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