Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
はじめに
精神分裂病者に対する作業療法を考える時,作業療法担当者は,たいてい二つの悩みをもっている.ひとつは発病後の経過が比較的短かく,しかも短期間の入院が予想される分裂病者に対して,入院生活そのものへの適応を援助しつつ,なおかつ通院による継続治療への動機づけを作業療法でどの程度できるかという悩み.もうひとつは,自分が作業療法を開始する最初の担当者でなく,何年も前から作業療法を受けてきた長期入院の慢性分裂病者,あるいは再発―再入院をくり返しながら入院が長期化していく分裂病者に対して,作業療法そのものが長期化していくことの悩みである.長期入院者に対する特別の作業療法があるわけではない.手さぐりに,何らかのとっかかりを求めて試行錯誤しているうちに,あっという間に年月がたってしまうことの悩みである.
一口に長期入院といっても,何年以上入院が継続すると長期入院とみなされるのかは,漠然としている.大まかな入院期間の長さからみた呼び方を整理してみると,20年以上は超長期在院者(ultra long stay patients)11)5年2)ないし10年以上6)を長期入院者,1年以上3年未満がnew long stay patients 2)(長期化予備軍とでもいえるだろうか)と,よばれていることが多いようだ.日常の臨床では,10年以上を経過すると,長期入院という実感がずしりと湧いてくるのが,筆者の精神病院での体験である.一般に精神分裂病の治療を考える時の時間感覚は身体疾患に比べて,きわめてマクロ的といえよう.
分裂病者の入院が長期化する理由としては,①分裂病本来の経過からくる要因,②職員の見方,姿勢,治療へのとり組み方など,主として治療的はたらきかけによって決められる要因2,14),③上記の微妙な相互関係から決められる要因11),④家族,社域社会,なども含めた社会的,経済的要因11)などがあげられるだろう.どの要因がどの程度に重視されるかは,分裂病観,それに基づく治療観,さらには精神病院に抱くイメージなどによって,さまざまに揺れ動くと思われる.たとえば宇野は直接長期入院に言及しているわけではないが,分裂病の長期経過をきわめて具体的な数字をあげて考察している6).ある分裂病観に基づけば,長期入院の第一の理由は,分裂病本来の経過によるものとみなすことも可能であろう.おそらく,すべての要因がどのようにからみあって,ある分裂病者の入院が長期化していくかは,精神医学のみならず,社会学的な視点も加味することで,より明らかにされていくのであろう4,5).
作業療法でのはたらきかけが,長期入院の要因になっていることもありうるのだろうが,作業療法だけをとり出して云々できるほど,長期入院という現象は簡単なものではない.ここでは作業療法からみた長期入院者の特徴をさぐることで,精神分裂病者に対する作業療法の方向を考えてみたい.
Copyright © 1981, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.