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はじめに
どの専門職もサービス,教育,研究の3つをその基礎としており(Conine,1972),医学の場合これは,臨床,教育,研究と置き換えることができる.現在我が国で働いている作業療法士のほとんどすべては臨床または教育に携わっており,研究の多くは臨床家の任意によって行われている.すなわち,臨床および教育は,それを主たる業務とする者によって確実な実践の基盤を持っているが,研究は多くの作業療法士にとってプラス・アルファの仕事であり,義務を伴わないためその基盤は弱い.しかし任意であるだけに,研究の実践は,職業意識の高さを表わすものであるとも言えよう.
さて,臨床家にとって研究は任意ではあるが,より良い,より有効な治療は研究なくしては行い得ず,また教育も,研究による確実な裏付けを持つ治療方法を資料として得ることが出来なければ,空中楼閣にすぎない.つまり研究は,臨床および教育の基礎であるとも言うことが出来,研究を抜きにして,その専門職の進歩は考えられないのである.砂原(1974)は,「……すでに自分の持っている,できあいの知識で処理できることだけを処理して,あとは見送ってしまうというのでは進歩がない」と述べている.
ところで作業療法は現在,どの程度研究結果を基とした確実な科学的裏付けを持っているのであろうか.
1957年,Myersonは次のように述べている.「良い作業療法プログラムが行われているのを見た時,それがある患者にとって非常に役に立ち,また他の患者にとってある程度役に立っていることを疑う者は誰もいない.しかしながら,誰が,どのように,何によって,何故助はられたかを説明する力強い包括的な理論がないように思われる.(中略)世の中の出来事の多くは“常識”に基づいているが,科学の歴史は,検定のなされていない単なる印象は間違っていることが多く,最も役に立つ知識は,あるものが単に効果があったというのではなく,どのように,何故効果があったのかということである,と示唆している.2つの例をあげると,19世紀のフランスでは,牛乳を与えられた幼児の方が弱いアルコールの入ったブドウ飲料を与えられた幼児よりも死亡することが多かった.このため子供にとって,牛乳よりもワインの方が健康的な飲物であると信じられていた.これは事実としては確かにその通りであったが,これが正しかったのは,低温殺菌されていない牛乳よりもワインの方に有害な細菌が少なかった,ということにすぎない.(中略)同様に,19世紀のアメリカの農家では,家の裏のポーチにチーズを置いてカビを生えさせた.そして,この緑のカビが切り傷や怪我に効くと信じて使われていた.これは今日のペニシリンの効果とは比べようもない」.そしてMyersonは,「部外者から見ると作業療法は,科学以前のワインとカビの効果の段階にあるように思われる.」と結論づけている.Myersonがこのように述べてから既に23年が経過した現在,我々は果してこのワインとカビの効果の時代から抜け出しているのであろうか.これに対する答を明解に言い切ることは難しいが,いずれにせよ,科学以前を科学にまで高め得るのは,研究をおいて他にはないのである.
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