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はじめに
作業療法とは,身体や精神に障害のある人々に対し何か作業を行わせることによって,その障害を回復させるための医療であって,その原理はすでに古代エジプトや古代ギリシャの頃から発見され,まず精神科の分野において応用されたと言われる7)。
作業が実際に医学において心身の健康への手段として用いられるようになったのは,18世紀終わりから19世紀初めにかけてのことである。欧米で精神病患者の病院やサナトリウムが設立され,多くの人道主義者により,人間の活動への欲求に治療的な意味を与えようとする医療者の働きかけが生まれ,精神の健康状態を回復させるために作業を用いることが擁護,実践された。このようなモラルトリートメントが,作業療法の原型であるともされている。その後,19世紀の産業革命に伴う過酷な労働や生活環境の悪化と相まって蔓延した結核患者の治療にも作業が用いられたが,これも作業療法の原型とされている11)。
作業療法はその後も発展を続け,領域も,医療のみに留まらず,保健,福祉,教育,職業へと拡大してきている。
わが国においても,(社)日本作業療法士協会は,1985年に作業療法の定義を,「身体又は精神に障害のある者,またはそれが予測される者に対し,その主体的な生活の獲得を図るため,諸機能の回復,維持及び開発を促す作業活動を用いて,治療,指導及び援助を行うことをいう」としていたが,2018年5月に行われた総会にてこれを改定し新しい定義を決定した。
「作業療法は,人々の健康と幸福を促進するために,医療,保健,福祉,教育,職業などの領域で行われる,作業に焦点を当てた治療,指導,援助である。作業とは,対象となる人々にとって目的や価値を持つ生活行為を指す」
なお,新定義には以下の注釈が付けられた。
・作業療法は「人は作業を通して健康や幸福になる」という基本理念と学術的根拠に基づいて行われる。
・作業療法の対象となる人々とは,身体,精神,発達,高齢期の障害や,環境への不適応により,日々の作業に困難が生じている,またはそれが予測される人や集団を指す。
・作業には,日常生活活動,家事,仕事,趣味,遊び,対人交流,休養など,人が営む生活行為と,それを行うのに必要な心身の活動が含まれる。
・作業には,人々ができるようになりたいこと,できる必要があること,できることが期待されていることなど,個別的な目的や価値が含まれる。
・作業に焦点を当てた実践には,心身機能の回復,維持,あるいは低下を予防する手段としての作業の利用と,その作業自体を練習し,できるようにしていくという目的としての作業の利用,およびこれらを達成するための環境への働きかけが含まれる。
これらを見ても,作業療法が領域,対象を広げつつあることが分かる。同時に,作業療法には変わらないその核となるべきものがあり,歴史も積み重ねられてきている。本稿では歴史をふまえて精神科作業療法を概観する。
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