とびら
手づくりの治療
伊藤 直栄
1
1国立療養所東京病院附属リハビリテーション学院
pp.665
発行日 1980年10月15日
Published Date 1980/10/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1518102238
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機械で大量生産された製品の中には素晴らしく精巧な物があり,我々の日常生活に与える利益も,潤いも多大なものがある.一方手づくりと言えば,二つとない作品,磨きのかかった芸術作品などがまず思い浮かぶ.芸術作品には手先の器用さのみでは到底造り出せない深遠な世界がある.そこにはその人の人間性も,芸術を構成する科学的裏付もあり,徹してやまない探求心と努力を惜しみなく注いだ過程がある.であればこそ,手づくりのものには働き手と働きかけられたものとの間に交わりが生まれる.その結果として生産されたものには何か暖かい存在感が生まれ,その背景にいる人間の存在を意識させるものがある.
ところで我々の治療技術は医療機械に負うところもあるが,その多くは直接手によって行われている.世界的に名高い治療技術者の技術発展過程は正に手づくりそのものであることを痛感させられる.この手づくりの価値に魅せられて集い学ぼうとする後輩の数は実に多い.日本人は器用と言われる.しかし器用さと技術の修得は必ずしも一致するとは言えない.それは技術そのものが手の器用さのみではないことの証である.
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