随想
手づくりと文化
堤 隆信
1
1岡山県衛生部医務課
pp.373
発行日 1980年5月15日
Published Date 1980/5/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401206095
- 有料閲覧
- 文献概要
小学校五年生になる娘が,あるとき学校から遠足の携行品についての便りを持ち帰った.この中に弁当として注意書きがあり「手づくり」と記されていたことが,ずっと気にかかっていた.その後しばらくしてその疑問は妻に問うたことから解けた.それは「遠足・運動会などには,近頃店で売っている外食屋さんのものを持って行く子供が増えたので,先生が特につけ加えられたのでしょう」との言葉に,ホウ! ここまで均一化したのかと思うとともに,「手づくり」という耳慣れた言葉に興味を感じた.
私の家に木製のサラダナイフとスプーンがある.一昨年,関係各位のご尽力を得て訪欧する好機を与えられた時,チェコの古道具屋の店先で求めた手づくりの台所用品である.この二つの道具を使い出したら,今まで使っていた金属製のものよりぐんと具合がよいと家の者がいう.この二つの道具は,見かけは武骨であるが,大きさ,重さ,野菜のはさみ具合はまことによく,手になじむ,これを作ったチェコの職人の「これでよし」と感じた手ざわりが,そのまま伝わってくる.作るのも,使うのもいずれも人の手で,それらがよい感触を生む原因かもしれない.
Copyright © 1980, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.