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はじめに
理学療法概論と称して,理学療法という専門分野の形態,機能,役割,そして歴史的,倫理的思想背景などを総合的に考察し,理学療法の本質を継続的に認識して社会,もしくは医療界における理学療法の在り方,その志向性をより明確なものにしておくことは,この分野に専従する者の社会的責任である.
理学療法としての構成は,歴史的に外的要因によって規定された部分と,それに専従する者の総合的活動水準としての内的要因によって規定された部分によると考えてよい.すなわち,前者と後者の働きが合成されたものとしてみてよい.しかし,この合成作用は,相互関係の上に成り立っていて,片方だけの考え方や,行動で実現するものではない.よって,我々専従者は内的要因の充実に主体性を持って務めると同時に,外的要因としての法規定,社会や医療界の実状にも注目していなければならない.
理学療法の成果が問われるのは臨床の場であることは周知の通りである.そこでは,治療手段としての技能が求められる.しかし,そこまでに至る経過,また,治療が,それを必要とする人々に提供される社会的状況を考えると,種々の要素が複雑に絡み合っていて数多くの問題の基因となっていることが判る.
ほとんどの学問分野に,何々概論としての学科,もしくは講座が設けられている.これは,その分野を構成している諸観念を考察し,そこから共通性,相違性を検討,検証して普遍的な観念を総合化し,全体的理解や意味の把握を目的としている.
我が国における理学療法の歴史は浅く,従来より存在している東洋医学的治療と西洋医学的治療との混合や対立の中で,理学療法本来の在り方を築き上げて行くことは難関である.しかし,諸問題が山積されている現状を1つ1つ整理し,それらの問題解決に取り組む他に理学療法が発展し続ける道はない.
理学療法教育の中でも,理学療法概論(または概念)に当る講義を行っている学校は多いとおもうが,この中で何をどの程度提供して行けばよいかという統一見解はまだ持たれていない.今回の企画の意図は統一見解を提起することではないが,今後この方面の確立へのステップにでもなればと願っている.
今回の企画は6回のシリーズになっているが,いずれも難題で執筆者の方々に御苦労をかけることになりそうである.予定は次の通り.
1.理学療法,その倫理と思想的背景
2.理学療法の歴史的背景の考察
3.理学療法における治療手段の病態生理学的基礎
4.理学療法の職域,役割の実態と展望
5.理学療法における研究領域
6.理学療法士としての適性
筆者の担当テーマは表題に示されているが,幸い,日本理学療法士協会の倫理規定(Code of Ethics)も昭和53年度に誕生をみたので,それらに関連したことがらや,筆者の認識の及ぶ限りにおいて主要文献を参考にして倫理学的思想について述べてみたい.
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