連載 作業療法を深める・第81回
ケアの倫理とは,どういう思想か
品川 哲彦
1
Tetsuhiko Shinagawa
1
1関西大学文学部
pp.1063-1067
発行日 2023年8月15日
Published Date 2023/8/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.5001203511
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2回にわたって「ケアの倫理」の話を致します.医療に関係する仕事に就いている方は,ケアと聞くと「ああ,治療を意味するキュアと対比して,ケアとは看護の話だな」と思う方もおられるでしょうし,「いや,ケアは医療の中核にあって,それで医療は英語でメディカル・ケアという.だから医療の話だな」とお考えの方もおられるでしょう.しかし,これからお話しするケアの倫理は,医療や看護に関連しないことはありませんが,ケアという観念を基礎において構想された倫理理論です.
英語のcareという動詞は,「大切に思う」と「気がかりである」という意味を併せもっています.こちらがその人のことをどうでもよいとは思っていないからこそ,そしてまた相手のほうに放っておけない弱さ,傷つきやすさがあるからこそ,その相手のことが気にかかるのですが,同時にまた,気がかりなのは気持ちの負担ですから,こちらの弱みにもなりえます.とはいえ,誰ひとり気にかける相手がいなければ,人と人とのつながりは—物やお金をやり取りしてお互いを利用するような関係はなお残るにしても—失われていくでしょう.何ひとつ大切なものがなければ,生きがいのようなものも失われてしまいかねません.ケアという語には,こうした正負両面の含みがあります.
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