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はじめに
病気(老衰を含む),けがなどで日常生活をほとんど寝ている状態にある60歳以上の寝たきり者は,54万3千人と推計されている.その内で65歳以上の寝たきり者は49万5千人(総人口比4.2%)であり,その状態が6カ月以上持続している寝たきり者は36万6千人(総人口比3.1%)である.この内,在宅寝たきり者は26万7千人,また65歳以上で6カ月以上寝たきり者は,60%以上といわれる1).一方,2000年の寝たきり老人数は115万9千人(男43万人,女72万9千人),ぼけの老人数は121万3千人(男38万4千人,女82万9千人)と推計されており2),近い将来,要介護人口の急増は必至である.
今のようなサービスシステムでは在宅ケアの問題に限定して考えても対応できないことは明らかであるが在宅医療の進行は極めてゆっくりとしている.訪問看護を例にみると,6年前の昭和56年11月時点で,特別に予算を計上して訪問看護事業を実施していた市町村は全国の10分の13)に過ぎなかった.保健婦の雇用水準からみて,のこる他の市町村が老人の訪問看護をしていないということは,ほとんどありえないことだが,しかし保健所,市町村の定常活動に止めておくか,老人保健医療の事業体制に引き上げて組織的な看護活動体制を持つかの違いは大きい.昭和60年にわれわれは訪問看護事業体制を持つ市と持たない市の訪問看護の滲透度について調査したが,その結果はやはり事業化を試みている市において優っていた4).
承知のように,昭和58年2月施行の「老人保健法」は,どのような形であれ市町村に訪問看護や通所機能訓練事業等を義務づけている.そのこと自体重要な意義をもつものであり,今後少しずつ成熟していくことは間違いないことだろうとは思う.しかし現在の実情は,“成人保健法”という方が,活動実態に合っている市町村の方が多いようである.たとえば,日本看護協会が昭和58年の「老人保健法」施行後に全国市町村保健婦を対象に行った昭和60年11月の「老人保健事業における保健婦活動調査」によって,次年度の61年に訪問指導件数の延びの有無に対する質問に「増えるだろう」と回答したのは31.2%に留まった.理由の70%以上が人不足である(実際に老人保健法によって増員の予定がない市町村が半数以上になる)5).このようなこともあって,通所による機能訓練対象者を把握している市町村は,“ほぼ”と“一部”を合わせても45.2%程度である.当然のごとく,34%の市町村しか通所訓練プログラムを用意していない.あまつさえ45.4%が将来の実施予定さえ立っていない.理由の大部分は「場所や設備が整わない」か「OT,PTがいない」かの両方あるいはどちらかである5).ともかくマンパワーの問題が市町村に重く伸し掛かっている.多分今後の対人保健医療,福祉サービスは地方格差を広げながらの小さく緩やかな前進ということではあるまいか.加うるに,全国の一般病院7,824施設中訪問看護を行っているのは,昭和60年8月現在,597施設で7.6%に過ぎない.その内,訪問看護専任者を置いているところは18%であり,1カ月の訪問件数も平均すると11.1件と少ない6).
筆者が,このような実態を冒頭に述べるのは,昭和48年以降「寝たきり老人の実態」の調査は,大部分の自治体,市町村で行われており,要援護老人数は把握されているという実情からいって,どの市町村も訪問看護を実施していると思われがちであるが,実際はそうではなく地域リハビリテーションの進行が遅々としているのと同じような構造の中に訪問看護もあることを,本題に入る前に知って頂きたいからである.
本論では,都市の中でも訪問看護が活発に進められている横浜市を例にして,保健婦や看護婦が出合う「寝たきり老人」と「ぼけの老人」の実態とそのかかわりから生ずる看護職の問題の幾つかについて述べ,それを踏まえて老人の在宅ケアのあり方について考えてみたい.
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