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はじめに
視覚失認とは,見る意志がありかつはっきり見えているにもかかわらず,それが何である視覚的に認知できない状態をいう.Dejerine(1914)の失認の定義を借りれば(浜中1)の引用による),それは再認の障害である.
視覚失認の症状にはいくつかの種類がある.物体失認,純粋失読,相貌失認,色彩失認などがその主なものである.同時失認は,情況図について,各部分はすべて認知できるにもかかわらず場面全体の意味を理解できないものをいう.が,これはむしろ知性障害に近く,はじめにあげた4種とは異る範疇に属するもののように思われる(あるいは浜中1)が引用しているように,低次の多数要素の認知障害かもしれない).井村ら(1960)2)の視覚失認の象徴型は,ある患者が物体失認,純粋失読,視空間失認等を示さないにもかかわらず,同時失認,相貌失認,地誌的記憶障害等を呈したことから提唱された概念であるが,これもまたより知的な面に着目したもの,といえるかもしれない.
ここでは,物体失認,視覚失認性失読(純粋失読),相貌失認,色彩失認の4つを中心に話をすすめてゆくことにしたい.これらは1人の患者に同時に見い出されることもあるが,単独もしくは,2,3の組み合わせで出現することもある.1951-1978年間の国内の視覚失認報告例24例2~23)を一覧してみると(表1),相貌失認はしばしば他の3つを伴わずに出現することがあり(ただし地誌的記憶障害を伴うことは多い),視覚失認性失読(純粋失読)は色彩失認を伴うことが多いのがみとめられる.個々の患者について,視認困難な対象の範囲を明らかにすること,および視認以外の障害の内容を調べることは,その患者の障害の質を推定するうえで非常に大切なことである.
もう一つ重要なのは,その視認障害が何に由来しているのかを追究することである.Lissauer(1890)24)は,視覚的認知障害を来した1人の患者について詳細な観察を行い,そこから,視覚失認には統覚型と連合型の2つが考えられる,と述べた.統覚Apperceptionとは,彼によれば,感覚的印象を意識的に知覚する過程であり,連合Associationとは,こうして得た視覚情報から種々の表象(名前および名前に関する聴覚的,運動覚的記憶,そのものにかかわった体験およびその際の聴覚的,運動覚的,視覚的な感覚記憶など)をよびおこすことである.彼は2つの型をア・プリオリに導き,自分の症例は連合過程の障害であるとした.しかし同時に,実際には統覚もしくは連合の一方のみが障害されることは少ないであろうとも,連合障害があれば統覚障害の有無は決め難いとも述べている(ザポロージェツ25)は,知覚的行為および再認的行為の成立順序として,対象の発見→課題に適した標識(情報)の対象からの抽出→標識の吟味→抽出した標識と記憶に書き込まれた原基との照合,をあげているが,上述の考えとある意味では似かよっている.).
さて,一口に連合といっても,その内容が十分明らかであるとはいい難い.Geschwind(1965)26)は,失認の大部分は,特定のmodalityと言語をつなぐ連合線維の切断によって生じた呼称障害(naming defects)にすぎないとした.しかしこれには異論があって,たとえばDe Renzi,ScottiとSpinnler(1969)27)は,言語を介さずに対象の意味把握を調べることによって(後述),視覚失認の別の解釈を試みている.またAlbert,RechesとSilversberg(1975)28)は,純粋失読を伴わないある視覚失認患者について言語的刺激および非言語的刺激の双方について調べ,このような症状の発現には2つのメカニズム,すなわち1)半球間の視覚一言語切断と2)視覚的で非言語的な有意味刺激の範疇障害,の双方が作用している,との結論を述べている.
このような歴史は,もし初回評価によって視覚失認の患者が見い出されたならば,その症状に対しさらに多面的な検討を加えなければならないことを物語っている.この手続きを仮に二次評価と呼ぶことにするが,後につづく訓練プログラムは,この二次評価の内容に大きく左右されるはずである.
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