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Ⅰ.はじめに
頸髄損傷に起因する四肢麻痺患者は近年る増加しているが,九州労災病院においても脊髄損傷入院患者の中で頸髄損傷の占める割合は次第に増加し,現在では50%以上である1).
胸,腰髄損傷では車椅子利用により家庭あるいは職場での社会的自立例が多いが,頸髄損傷,特に高位レベル例では医学的にも社会的にも多くの問題を残している.従って総合的なリハビリテーションが切実に必要となる疾患であることは言をまたない.頸髄損傷の臨床像は,損傷高位,程度,あるいは続発する合併症の程度により複雑な症状を示す.上肢に関する運動麻痺の程度は損傷髄節の高位により決定され,各レベルごとに特殊な残存運動機能を有する.
日常生活動作の自立にあたっては,この障害を有する上肢機能を確立することが絶対の条件となる.上肢機能を大別すると摘み,握などの把持機能(Prehensibility)と,目的の位置に手を伸ばす到達機能(Reachability)があり,高位損傷レベルでは両者,また下位損傷レベルでは特に把持機能の確立が問題となる.上肢機能獲得のリハ的手段として,筋力強化などの訓練により,代償的な動作を活用する方法,腱再建術などの手術的方法,あるいは自助具や上肢補装具を利用する方法などがある.とりわけ四肢麻痺に対する手副子は,その上肢障害の特殊性,すなわち両側が同程度に障害され,有効な残存筋と麻痺筋が髄節的に明確であること,及び患者のニードが高いということにより活用頻度も高く種々のタイプが利用されてきている.
一般的概念として,手副子は患部の安静固定,変形の予防,矯正のための肢位固定,および把持機能を確立するための動的支助の目的で処方される.四肢麻痺に対する手副子も同様な目的で活用されているが,ここでは把持機能及び到達機能を獲得するための機能的補装具(Functional Orthotics)を主として述べる.また日常生活動作を自立するために自助具も頻繁に用いられているが,四肢麻痺においては,その障害の多様性から補装具的手段も多様化され,手副子と自助具を区別して述べるのは困難である.従って表題の手副子(Hand Splint)りの意義を拡大し,上肢補装具(Upper Extremities Orthotics)という観点から述べる.
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