頸椎後縦靱帯骨化症について

Ossification of Posterior Longitudinal Ligament of the Cervical Spine

はじめに

　頚椎後縦靱帯骨化症は重篤な脊髄症状をきたす脊椎疾患の一つである．頚椎脊椎管内の後縦靱帯が骨化したため頚髄を直接圧迫し頚髄症の症状を呈する．その症状は頚権症性頚髄症と類似しているが，長さと巾のある骨化靭帯が脊髄に影響を与えるので，その病態のみならず手術的治療の面でも幾多の問題点を含んでいる．また，この疾患は比較的新しく発見され，しかもわが国において見つけられた脊椎疾患であることは特記すべきことである．

　1960年，月本¹⁾が脊髄圧迫症状を呈した頚椎椎管内仮骨の剖検例として，頚椎の後縦靱帯骨化が認められた症例を報告したのをもって嚆矢とする．翌年1961年鈴木²⁾らは，レ線上頚椎の椎体後縁に沿って，後縁と明らかな境界を有する均等な棒状石灰化陰影の認められた症例を報告，その後，寺山³⁾，小泉⁴⁾，横井⁵⁾らの症例報告があいつぎ，1964年，寺山および藤本⁶⁾らは頚椎の後縦靱帯骨化症と提唱し剖検例を含めた5例の症例を詳述している．以後，整形外科医のみならず神経内科医，神経外科医も深い関心を示し本症の病態，疫学，レ線的分類，治療，病理に関する報告がなされている．外国での報告例^7，8)は，ここ数年前から散見されているにすぎず極めて少ない．本症は日本人に特に多い脊椎疾患といわれている．脊椎の靱帯が骨化するという点で骨化の機序，病態の面からも興味ある疾患といえよう．いまだその成因，本態については不明な点が多々あり，治療に難渋することなどから，昭和50年度より厚生省の特定疾患に指定されている．我々もこれまでたびたび報告^{11，17，25，26，32，37，38，39，40)}してきたが，以下自験例を含めて頚椎後縦靭帯骨化症（以下骨化症と省略す）の概観を述べる．