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Ⅰ.はじめに
1817年Jemes Parkinsonは振戦と筋力低下を示す6症例を報告し“振戦麻痺(shaking palsy)”と命名した.これがパーキンソン病(Parkinson's disease)といわれるもので,原因不明の疾患であるが,今日では種々の原因でおこる振戦(tremor),筋強剛(rigidity),無動(akinesia)を3主症状とする症候群をパーキンソン症候群(Parkinson's syndrome)とかパーキンソニズム(Parkinsonism)と呼んでいる.これらは多くは同一の治療に反応する疾患である.
パーキンソン症候群の主要症状は中枢神経系,とくに線条体(尾状核と被殻)黒質,青斑核における,ドーパミン(dopamine)代謝の低下あるいは欠乏によるとされている.Hornykiewiczは,パーキンソン症候群は原因は何であれ,生化学的には線条体におげるドーパミンの欠乏によっておこるものとした.黒質と青斑核は古くからパーキンソン病で特異的,選択的に神経細胞の消失や変性が認められる核として知られていたが,その後に黒質から線条体への線維投射が解剖学的にも明らかにされ,現在では黒質に原因不明の選択的変性が生じ,二次的に線条体の生化学的変化がおこったと考えられている.黒質神経細胞の変性については,体質的な代謝酵素の異常,ビールス感染,脳血管性障害による散在性あるいは局在性病巣などが推論されている.またパーキンソン症候群としてはフェノチアジン,レセルピンなどの薬剤の長期投与,一酸化炭素やマンガンなどの中毒で生じるものがある.
最近10年間にわたり,ドーパミン代謝低下を補うためにl-DOPAが用いられているが,その結果では筋強剛や無動にはかなり効果(80%)をみせるが,振戦への効果は劣る(50%)ことから,これらの症状の発生機序は別個のものとも考えられている.
パーキンソン病は中年期以後に多く発病するもので,50~65歳の発病が全体の3/4を占めている.40歳以下での発病は少ないが,まれに思春期にも発病することがあり,これらは若年性パーキンソン病として臨床上は特殊な存在となっている.患者の男女比は1.2~1.6で男性に多い.本邦における実態は不詳であるが,欧米では人口10万人に対して60~114人の患者数が報告されているが,今後は人口の老齢化につれてこの数も増加するであろう.
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